『冷たい炎』



  男の性器に唇を寄せると、汗と小便のにおいがしていた。そういえば、この男はゾロと一緒にトレーニングをしていたくせに、シャワーを浴びていない。
  しかし躊躇うことなくサンジは先端をぱくりとくわえると、口の端できゅっと竿を締め付けた。
「サンジ……」
  頭の上でエースが何か言おうとしている。
  舌で竿の裏を刺激し、口全体で吸い上げた。すぐに鈴口からエグみのある青臭い精液が溢れ出し、サンジはそれを丁寧に舌で掬っては舐めとっていく。
「……ん、ん」
  片手で玉袋を揉みしだきながらペニスを舐めた。ピクン、ピクン、と震えながら、勃起したものが硬度を増す。エースが体を動かすと、時折、先端がサンジの喉の奥を突いた。えずきそうになりながらも竿を舐め回した。
  髪の間に差し込まれたエースの指先が、心地よい。
  目をとじて、サンジはうっとりとした。竿の裏側を、音を立ててしゃぶった。筋が浮き上がってピクピクとなっているところを舌で押し潰すと、押し殺したようなエースの吐息が耳に届いてくる。
  顔をあげて、ちらりとエースの様子を見た。
「どうした?」
  尋ねながら、エースの手がサンジを引き起こす。
「顎が疲れた」
  そう言うと、男の手がサンジの体をぐい、と膝の上に引き寄せる。腕の筋肉が隆起し、サンジの体を抱きしめた。
「……口でしてくれ、って言ったら、どうする?」
  尋ねながらもエースの手は、サンジの腰のあたりをさまよっている。尻の狭間を指先がなぞりおりていくと、その部分がカッと熱を発しだす。
「アンタのなら、飲んでもいい」
  言いながらサンジは、エースの体を麻袋の上に押し倒した。自分からエースの顔に尻を向けて、跨る。目の前の男のペニスが先走りを滴らせ、ブルッと震えるのを、口いっぱいに頬張った。
  男の指がすぐに、サンジの尻の間に潜り込んでいった。



  体が熱かった。
  どこもかしこも、男の体の熱が伝染したかのように、熱い。
  唇を寄せて、亀頭を吸い上げた。尿道口に舌先をねじ込み、ぐりぐりと刺激を与えてやると、さらに濃い味の精液が溢れてくる。エースの味だ。
  指先で竿の根本をきゅっと締め付け、先端をしゃぶり続けた。
  その間にもエースの指は、サンジの尻の穴を探り当て、襞の狭間に潜り込もうとしている。
「エース……」
  掠れた声で、サンジが呟く。
「なに?」
  言葉を返すエースの吐息が肌にあたって、サンジはぞくりと身を震わせた。
  体の中で燻っている熱の一部は、おそらく先日の名残だろう。あの時、どうして最後までしてしまわなかったのだろうか。こんなにも体が燃えるように熱いのなら、最後までしてしまえばよかった。
「この間みたいに…──」
  言いかけた言葉を途中で止めて、サンジは思わせぶりに体を揺する。
  エースは微かに笑った。
「ココ、もっと解してからな」
  そう言うと、襞の隙間から潜り込ませた指で、ぐりぐりと中を掻き混ぜる。
  思わせぶりに指を抜き差ししては前立腺の付近を圧迫するエースの指は、容赦なくサンジを攻めた。息つく暇も与えずに快楽を与えたかと思うと、不意にズルズルと引きずり出そうとし、サンジに啜り泣くような声をあげさせた。
  サンジは、必死になってエースのペニスをしゃぶり続けた。
  この男の熱で、体の中で燻っている欲望を焼き尽くしてほしい。
  ──早く、早く、早く!
  頭の中が真っ白になり、言葉も出ない状態がいったいどのぐらいのあいだ続いたのだろうか。不意に口の中に熱い迸りが溢れ返り、濃厚な味とにおいにサンジは軽い吐き気を覚えた。
  むせながらも口の中の精液を飲み干した。喉を鳴らして竿を吸い上げると、くすぐったいのか、エースが笑った。
「……悪りぃ」
  何のことを言われているのか、サンジにはわからなかった。
  きょとんとしてサンジは四つん這いの姿勢のまま、エースを振り返る。
「こっちに……」
  呼ばれて、サンジはエースのほうに向き直った。
  腹を跨いで腰を下ろすと、たった今、射精したばかりのエースの性器がサンジの尻にあたった。ピクピクと蠢き、先走りを零しながら少しずつ硬くなっていっている。
「入れてもいいか?」
  神妙な顔つきで尋ねられ、サンジは頷いた。



  さんざん指で嬲られた部分をいっそう大きく割り開いて、エースのペニスが押し込まれる。
  指とは違う太い質感に、サンジは身を震わせた。
  ゆっくりと内蔵が迫り上がってくるような感覚に、吐き気を催す。
「痛いか?」
  尋ねられ、サンジは首を横に振った。
  痛くはない。ただ、あまりにも太いエースの性器に、なかなか体が慣れないだけだ。
「だいじょ…ぶ……」
  掠れて弱々しい声でサンジが返すと、髪に指を差し込まれ、何度もキスをされた。
  それだけで、サンジの体は熱くなる。
  さらなる熱を求めてサンジは手をさしのべ、エースの首にしがみついていく。肩の筋肉に口づけると、くすぐったそうにエースが笑う。と、同時に腹の中のエースの性器がぐん、と大きくなった。
「ぁっ、あ……」
  慌ててサンジが体をずらそうとすると、ぐい、と肩を押さえられ、エースの腕の中に閉じこめられた。
「このままでイクんだ」
  耳元でエースが囁く。
  首を何度も横に振って、サンジは拒否した。言葉は出なかった。口を開くと何を言うかわからなかった。言わなくていいことまで口走ってしまいそうで、怖かったのだ。
「嫌か?」
  耳たぶをやんわりと噛まれた。歯を立てて、何度か耳たぶを噛みしめたかと思うと、ぬるりと舌が耳の中に押し込まれた。
「んっ……」
  きゅぅっ、とサンジの尻の穴が締まり、エースの竿を締め付ける。
「や……」
  意識してやっているわけではないのに、締め付けを緩めることができない。体の力を抜こうとすると、下からエースに突き上げられた。
「あ、あ、あぁ……」
  甘い声がサンジの口から洩れ出す。
「やめ……エース、や……」
  小さく悲鳴をあげて、それでもサンジはエースにしっかとしがみついている。
  こんなに体が熱いのは初めてだ。
  遠くなる意識の中でサンジは、体の中を駆けめぐる熱のことを考えた。
  体を貫く灼熱の棒が、サンジの尻の間でぐちゃぐちゃと音を立てて出し入れされている。気持ちよすぎて、何も考えられない。ふと自分の股間を見ると、触れてもいないのに射精したらしく、精液でどろどろになっている。
  エースがイク時には、もう一度、自分も一緒にイクのだと、漠然とサンジは思った。
  しがみついていた片手をゆっくりとエースの体のラインにそっておろしていくと、サンジは自分の股間に手をやった。



  続けざまに二度、エースはイった。
  二回とも、エースはサンジの中にたっぷりと精液を注ぎ込んだ。
  性器を抜くことなく始まった三回目には、サンジの体を麻袋の上に押し倒して激しく突き上げた。
  途中で、精液のにおいに混じって血のにおいがしてきた。
  どこかが裂けたのだろうとサンジは思った。
  痛みがあったような気もしたし、もしかしたら痛くはなかったかもしれない。とにかく、覚えていないのだ。
  必死になって両足を男の腰に絡めると、突き上げはさらに激しさを増す。
  その頃にはサンジの声は枯れ、ヒッ、ヒッと掠れた音が喉からあがるばかりになっていた。
  腹の中に新たな熱を叩きつけられる瞬間を追いかけて、サンジは自ら腰を振った。
「サンジ……」
  甘い声が、耳元でしている。
「ん、んんっ……」
  言葉で返すことができないのを不満に思いながら、サンジはぎゅっ、とエースに全身でしがみつく。
  不意に、股間をまさぐる自分の手に、エースの手が重ねられた。自分の指の隙間から、エースの熱が性器へと伝わる。熱い……自分の熱だけでも持て余しているというのに、それ以上に熱いエースの体温に、サンジは頭の芯に痺れるような感覚を感じた。
「ひっ…ああぁ……」
  重ねた手を大きく動かされると、先走りとは思えないような大量の精液がサンジの先端から溢れ出してくる。
「すごいな、ココ。びしょびしょだぞ」
  汗の粒が浮き上がったサンジの喉元をペロリと舐めると、エースはいっそう激しく腰を揺さぶった。
  カリの部分が前立腺を刺激すると、そのたびにサンジはヒッ、ヒッ、と喉を鳴らした。
「もうちょっとだから、我慢しろよ」
  そう言って、エースは大きく腰を突き上げた。
  サンジの体が大きくしなり、何度か痙攣した。
  重ねた手が、サンジの吐き出した精液でドロドロになった。
「──…いい子だな」
  最後に、サンジの耳に届いたエースの声は確かにそう言っていたはずだ。



  意識を失っていたのはどれぐらいの間だろうか。
  目を開けるとまだ格納庫の麻袋の上で、エースは隣で眠っていた。
  気を失っている間にサンジの体は清められていた。この男は、いったいどんな顔をして自分の後始末をしたのだろうとサンジは思う。
  何よりも、自分が世話をされる立場でいるのはフェアではないと、そんな風にサンジには思えて、今はすべてが気に入らなかった。
  できることなら、放っておいてほしかった。
  一人の人間として、自分にできることに手出しはしないでほしいとサンジは思う。おそらく、この船の者なら誰もが皆、そう思うだろう。これは、エースを好きな気持ちとは関係ない。
  体を起こすと、下半身が痺れていた。腰から下がなんとなく重怠い。
「やることやって、疲れたから寝るってか?」
  ムスッとしてサンジは呟く。
  男の瞳が見たかった。底抜けに明るい笑顔で、喋りかけてほしい。太陽のにおいをさせる腕で抱きしめて、キスをしてほしい。
「なぁ……」
  掠れた声で、眠り込んでいる男にサンジは声をかける。
「最後にイッた時、アンタ、中に出さなかっただろ」
  腹の中いっぱいに欲しかったのに、三回目はサンジの腹の上に放ったのを朧気に覚えている。あの瞬間、エースが何を思っていたのか、サンジは知りたかった。
  眠り続ける男の鼻をきゅっ、とつまむと、口があんぐりと開いた。
  すかさずサンジは舌をつっこみ、くちゅくちゅと音を立ててエースの舌を吸い上げた。
  もうすぐ、夜が明ける──



To be continued
(H20.7.21)



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