『恋はトツゼン! 17』



「あ?」
  その瞬間、ゾロの身体の筋肉という筋肉がピクリと緊張した。
「……やっぱダメだわ、俺」
  がっしりとしたゾロの首にしがみついて、サンジは呟いた。泣いているのだろうか、サンジの声は微かに震えている。
「ダメだ。俺は……お前の、妨げになる。多分……いや、絶対に」
  そう告げた瞬間、サンジはたった今、自分で自分の首を絞めたのだと思った。自分から別れの言葉を口にするのは、狡いかもしれない。もしかしたら二人はこれからもいい関係を築いていくことができるかもしれないのに、始まったばかりのところで別れようとは、何と自分は狡賢いのだろうか。それでも、今、別れてしまえば傷も浅いはずだった。そう深く傷つくこともないだろう。ゾロのことを想ってもやもやとした気分の夜を過ごすのも数えるほどですむはずだ。今なら。
「アホか、お前は」
  呆れたようにゾロが言った。
  片手でサンジの頭をポン、ポン、とするのは、ぐずる子を落ち着かせようとしているかのようだ。
「でもっ……」
  尚もサンジは言葉を続けようとした。
  抱きしめた腕の皮膚を通して、サンジの不安や迷いがゾロにも伝わってくる。
「──俺はきっと、お前を駄目にしてしまう。今でなくとも、いつか、絶対に」
  今すぐではなく、いつか。
  サンジの心に重くのしかかっているのは、不安定な未来。いつか自分がゾロの妨げになったなら。いつかゾロが、自分を必要悪だと見なすようになったなら。そのどれもが、たった一つのものを指し示しているのは明らかなことだ──二人とも、男だという紛れもない事実。それら不確かなものたちへの怖れが、サンジの心にとりついて離れない。
「俺を駄目にするのは、俺自身だ。お前には関係ない。もしもお前の目に、俺が駄目になるのが見えるのなら……」
  と、ゾロはここで言葉を切った。
「見えるのなら?」
  のそりと顔を上げてサンジが先を促すと、鋭い眼差しに睨み付けられた。



  不意に、勢いよく唇を吸い上げられた。
「んっ……」
  甘えるような鼻にかかった声が洩れる。
  ゾロの舌が、ちろちろとサンジの唇を舐める。くすぐったいような気持ちいいような感覚に、サンジは閉じていた唇をあける。サンジの口の中に招き入れられたゾロの舌は、容赦なく奪い取っていく。唾液も、舌も、サンジの気持ちまでも。
「……んんっ」
  再びゾロの手はサンジの尻を割り、その奥の窄まりに指を引っかけてきた。
  溢れた唾液がサンジの口の端からたらりと零れる。
「お前は、お前の思うようにしろ」
  息継ぎの合間にゾロが言った。
  後孔に入り込んだゾロの指が好き勝手に蠢き、サンジのいいところを執拗に探っている。
「ぁ……ぅあ……」
  潤んだ眼差しでサンジはじっとゾロを見上げた。
  もう限界だと、眼差しで訴える。
  ゾロの指が動きを止めると、それだけでサンジの後孔はひくひくと収縮した。ごつごつと節くれ立ったゾロの指を身体の奥へと飲み込もうと、何度も何度もひくついている。
「も…っ……もう……あぁっ!」
  サンジはぎゅっ、とゾロの腕にしがみつく。掠れた声が、いっそう生々しい叫びとなって浴室に響く。口を開くと意味のない言葉が零れてしまいそうで、サンジは無意識のうちに唇の端を噛み締めた。



  結局、自分はゾロの側にいたいのだとサンジは思った。
  なんだかんだと言い訳を並べ立て、ゾロから離れようと……別れようとするのは、彼の側にいることができなくなった時のことを考えての保身でしかなかった。深入りしすぎる前に彼のことを忘れてしまえば、自分自身もそう傷つかないだろうという、安易なその場しのぎの考えでしかない。
  それほど自分はゾロという男の側にいたいのかと、サンジは呆れていた。と、同時に、たかだか男一人のためにこんなにもくだらないことを考える自分を、蔑んでもいた。
  自分はこんなにも弱い人間だったのか、と。
  弱くて、ちっぽけで、何と狡賢いのだろうか。
  自分の存在がゾロを駄目にするのではない。自分が、自分自身を駄目にしているのだ。膿んだ心で、自分を取り巻く環境を壊してしまおうとしている。
  そう。
  何もかも、自分自身が望む結末なのかもしれない。
「──…ぁ……」
  ゾロの肩口にしがみつき、サンジは小さく息を吐いた。
  息を吸って、吐いて、また吸って。煙草を吸う時以上に難しい。息をすることがこんなにも難しいことだったとは、考えもしなかった。サンジは陸に上がった魚のように、何度もパクパクと口を開けて息を吸った。
「落ち着け」
  ゾロが言った。
  宥めるように、髪に唇で触れられた。
「落ち着け。俺は、お前の側にいる」
  低く掠れた声で、囁かれる。耳元にかかる吐息が熱い。
「俺は、ここにいる──」



  目を開けると、あかり取りの小窓の隙間から入ってくる西日が眩しかった。西の端へと沈みかかった太陽は、炎のようなオレンジ色をしている。
  サンジは目をすがめ、窓枠を眺めた。
  身体の中には勃起したゾロのものが深々と埋まっている。どうやら、どさくさに紛れて挿入されてしまったようだ。
  しがみついたゾロの胸に残る傷跡を指の腹で何度かなぞった。最後に、硬くしこったゾロの乳首を爪先で弾いてから喉元にキスをした。
「少しは落ち着いたか?」
  と、ゾロが問う。
「ああ……まあな」
  返しながらもサンジは、自分の尻の筋肉がゾロを締め付けているのを感じている。
  口先で別れを仄めかしてみても、無駄なようだ。こんなにも自分は、ゾロを欲している。こんなにも心の底から、この男に抱かれたがっている。身体の中に潜り込んだゾロのペニスを締め付け、奥深いところでトロトロと溢れ出る精液をすべて搾り取ってしまおうと、待ち構えている──
「難しいことばかり考えるな」
  ゾロが言った。
「お前はあんまり色々なことを考えすぎるから、しまいにゃ、妙なことを言い出すんだ」
  そう言ってゾロは、サンジの耳たぶを甘噛みした。軽く歯を立てると、ビクン、と身体が大きく震え、サンジの締め付けがいっそうきつくなった。



  ゾロのごつごつとした手が、サンジの胸の突起をなで回している。
  マッサージをするように乳輪をなぞり、勃起した乳首に触れるか触れないかのところへゆるゆるとした愛撫を加える。
  サンジの前も勃起している。先端から溢れ出した精液が二人の肌に付着し、身体についていた石鹸の泡と混じり合ってはポタリ、ポタリ、と落ちていく。ふとサンジが俯いた拍子に、排水溝へ流れ込もうとする自らの精液と石鹸の泡が目に入った。
「……なあ、声、出せよ」
  サンジが呟いた。
「俺にも、お前の声を聞かせろ」
  そう言うと、サンジは自分から腰を動かし始めた。
  銜え込んだゾロのペニスがサンジの中から引き抜かれ、また沈み込んでいく。
「ああぁ……」
  押し殺したようなサンジの声がゾロを誘っている。乳首を強く摘み上げられ、背が仰け反る。かろうじてゾロの身体にしがみつくことで、なんとか体勢を保った。ピリピリとした痛みにも似た快感が電流のようにサンジの身体を駆け巡り、身体の奥深いところまで浸透していく。
  と、その時。
「はっ……はぁ……ぁ……」
  荒い息に混じって、喉の奥から絞り出したような切なげな声がサンジの耳に響いた。
「ゾロ……!」
  咄嗟にサンジは尻をゾロの太股に押しつけた。尻の筋肉を意識的に締めると、身体の中でゾロのペニスがドクン、と脈打つのが感じられた。腹の中に、精液が叩きつけられる。






to be continued
(H16.3.12)



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