『恋はトツゼン! 19』



  布団の中で互いの身体をしっかりと抱きしめ合った。
  煙草のにおいが微かに残るサンジの体臭は、麝香のように甘い香りを放っている。
  骨張った無骨なゾロの手が、サンジの腰をしっかりと引き寄せた。
「明日も、明後日も、明々後日も、その次も……ずっと、店に来い」
  サンジが言った。
  言いながら、軽く触れるだけの口づけをゾロの唇の端に落とす。
「行ってどうする」
  喉の奥でざらりとした笑いを発すると、ゾロはサンジの顔を覗き込んだ。
「俺のいれたコーヒーを飲め」
  と、サンジ。
「コーヒーだけか?」
  悪戯っぽくゾロが尋ねると、サンジはくしゃくしゃの顔をして笑う。夕方、道場にふらりと現れた時の不安げな様子はいつの間にかなりを潜めている。いったいサンジは、何に怯えていたのだろうかと改めてゾロは思った。
「メシも食わしてやる。クソうめぇメシを作ってやるよ、お前のために」
  そう言われるとゾロも、悪い気はしない。
「それから……」
「なんだ、まだあるのか?」
  会話を遮ってゾロが口を挟もうとすると、脇腹を軽くつねられた。
「痛っ……」
「クソマリモ、黙って俺の話を聞いてろよ」
  言われた通り、ゾロは口を閉じた。サンジの手は、まだゾロの脇腹を彷徨っている。
「ええと、とにかく、だな。お前は毎日、店に来りゃあいいんだよ。それで俺のいれるコーヒーを飲んで、俺の作るメシを食ってりゃいいんだよ」
  言いながらサンジは、自分がプロポーズの言葉を口にしているような気になってくる。自分が口にした言葉に照れてしまい、照れ隠しのために頬をぐいぐいとゾロの肩口に押しつけていく。
「それだけか?」
  尋ね返すゾロのてのひらが、脇腹でもたつくサンジの手をふんわりと包み込んだ。



  二人はゆっくりと愛し合った。
  時間をかけて、とろとろと蕩けるようなキスを交わした。
  何度もきつく吸い上げて、痺れるような舌の感触にサンジは酔った。押し殺した喘ぎが部屋に満ち、汗と精液のにおいが鼻をつく。
  舌をいっぱいいっぱいつきだして、先端を触れ合わせる。くすぐるような感触が続き、そのうちにどちらからともなく焦れた舌をまた相手の口の奥へとねじ込んだ。
  ゾロの腹の上に乗り上げて、サンジはキスをする。
  二人の口から唾液が溢れてきて、ゾロの頬を伝い落ちていく。月明かりの中でサンジは、唾液が反射して青白く光るのを見ていた。指の腹で白く光る筋を辿ると、大事そうに舐め取る。
  下腹部の疼きを何とか押さえ込んだゾロは、サンジの頬を撫で上げた。
  すぐに唇がおりてきて、ゾロの唇を優しくついばむ。
  その合間にも、ゾロの片手は自分のものを扱いている。時折、サンジのペニスにもゾロの竿や手があたり、どちらのものとも判別のつかない先走りの液がにちゃにちゃと湿った音を立てた。
「俺が……自分で、する……」
  掠れたサンジの囁きが、ゾロの口の中へと消えていく。
  サンジの手がするりとゾロの手に重ねられ、陰茎を軽くなでさすった。それからサンジはもぞもぞと上体を起こし、ゾロの腹の上に腰をおろした。ゾロの先端の先走りを指ですくいとり、自分で後孔を押し広げ、慎重に、慎重に、塗りこんでいく。
「あっ……」
  サンジの腿の付け根に、ゾロのもたつく手があたったようだ。わずかに腰を浮かし、サンジはゾロの胸のあたりに手をついた。暗がりの中、てのひらにはっきりと大傷の跡が感じられた。
「んっっ……」
  ぬるり、と尻にさわるのは、ゾロのペニスだ。張りのあるそれは炎のように熱くて、真鍮のようにかたい。サンジはゾロの竿の部分に手を添えると、ゆっくりと腰を下ろしていく。先端部分が触れると、それだけで孔がきゅっ、と締まりそうになる。何度か先端部分を含んだり出したりしながら、ゆっくりとサンジは身体を押し沈めていく。
  焦れたようにゾロが下から突き上げると、サンジは背を弓なりに反らせてか細い声をあげた。



  突き上げてくる感触に、サンジは違和感を感じていた。
  何か、違う。
  ──何が?
  下腹の奥の疼きは、風呂場での情事をサンジの身体にはっきりと思い起こさせた。不意に、その違和感の正体が何であるのかに気付いたサンジは眉間にしわを寄せ、短く喘いだ。
「ぁ……あ、あ……」
  いやいやをするように首を大きく横に振り、サンジは、ゾロを睨み付ける。
「てめっ……いつの間に……」
  目を見開いてゾロを見下ろすと、彼は何食わぬ顔で下から大きくサンジを突き上げてきた。少しだけ鼻白んだゾロのそのふてぶてしい様子が、サンジには気に入らない。
「んぁ?」
  口の端をきゅっ、とつり上げゾロは、サンジの胸の突起を軽くつまんだ。指の腹でぐりぐりと押しつぶし、乳首の根本のあたりを執拗に責め続ける。親指の腹で小刻みに擦りあげると、サンジの乳首はぷっくらと膨らみをみせる。
  無意識のうちにサンジの後孔が締まり、ゾロを締め付けた。
「…ひっ……んんっ……」
  喘ぎながらサンジは、物足りなさを感じている。そう何度も身体を繋げたわけではないけれど、身体の中を満たすものが欲しくて、きりきりとゾロを締め付ける。不快感しか得られないと思っていた粘着質の、精液の感触を求めて身体を動かす。
「──…っつ……」
  ガリ、と音がして、その瞬間、暗がりの中でゾロが顔をしかめるのが見えた。
  サンジの舌先を、血の味が掠める。
  薄い透明な膜の中で、ゾロの竿はひくついている。ラテックスなんかを使うからだと、サンジは意地悪く思った。腹の中に満ちてこないものを求めて、サンジは尻をぐいぐいと押しつけていく。得られないのならばせめて、身体の奥を突き上げる感覚に酔いたいと、そう願って。
  ゾロの両手がサンジの腰をがっしりと掴んだ。やや乱暴に揺さぶると、サンジはペニスの先端から熱い塊を迸らせながら大きく喘いだ。



  微睡みから覚めたのは夜明け前のことだ。
  ゾロはまだ、眠っている。
  そろそろと身体をずらすとサンジは、ゾロの裸の腹に唇で触れてみた。筋肉質な、かたい腹だ。へそのわきをペロリと舌で舐めると、ゾロが微かに身じろぎをした。そのまま、下のほうへと向かってサンジは唇を這わせた。縮れた陰毛の中に隠れるようにして、今はふにゃりとなったゾロのペニスが眠っている。
  ぱくりと口に含むとサンジは、口内の肉できゅっ、とペニスを締め付けてみる。口で何度か扱いてみると、あっという間にペニスは硬度を増してくる。どこか酸っぱいような青臭い味がするのは、何時間か前に射精したからだ。
  サンジは舌で竿の裏側を舐めあげ、ついている精液を味わった。愛しそうなその様子に、少し前から目を覚ましていたゾロもようやく身体をずらして上体を起こした。
「なんだよ、いつから起きてやがった」
  少しムッとしたようにサンジが問うと、ゾロは「さあな」とだけ返した。
  ゾロにつられてサンジも身体を起こすと、ゾロの唇に掠めるようなキスをする。
「挿れたいだろ、俺の中に」
  挑みかかるように横柄な口調でサンジが言う。サンジがどうしたいのか、ゾロはよくわかっていた。そのままサンジの身体をひょい、と転がすと、身体の下に引き込み、勃ちあがりかけていたものを後孔へと突き立てた。
「ひあっ……ぅ……」
  ひりひりとする孔の入り口はしかし、痛みとは別の感覚をサンジに送り込んできた。
  肌が擦れ、敏感になったサンジの胸の先端はいつの間にか熟れて色づいている。
「お前の望むままに──」
  ゾロが、低く返した。






to be continued
(H16.5.21)



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