どこにも帰さない4


  服の上から腕に押し付けられた何かが、獄寺の皮膚にチクリと刺さった。雲雀は最初からハイポスプレーを隠し持っていたのだろう。ひんやりとした薬液が皮膚の下に流し込まれ、素早く体内を駆け巡っていく。
  獄寺の眉間の皺がより深くなり、威嚇するように二人を睨み付けた。
  骸は淡い笑みを浮かべていた。
「発情期と同様の症状を一時的に発生させる薬です。副作用はありませんから、心配しなくても大丈夫ですよ」
  薬が抜ければ元に戻るとも、骸は言う。どこまで信じればいいのか、獄寺にはわからない。そもそもこの男を信用していないのだから、当然のことだろう。
  雲雀は使い終えたハイポスプレーの容器を床の上に投げ捨てた。
「この誘発剤は速効性のものだからね。すぐに効いてくるはずだよ」
  すぐだよ、と雲雀はたいして嬉しくもなさそうに繰り返す。
  さらに雲雀はカーテンの向こう側にある医療器具をずらりと並べたテーブルから、耳かきのような形をした金属の器具を取り上げ、カチャカチャとわざと不快な音を立ててみせた。
「僕はオメガの身体に興味があるんだ。中を、見せてもらうよ」
  獄寺にもよく見えるように器具を掲げてひらひらとさせながら、雲雀は言った。その視線は真剣で、微かな苛立ちを含んでいる。
  ああ、こいつもアルファだったんだ。不意に獄寺は悟った。雲雀がアルファ性だと聞いたことはなかった。これまで雲雀自身が第二の性に興味を持っていなかったからだろうか、骸のようにアルファのフェロモンを感じたことはなかったが、今ならはっきりと言える。雲雀はアルファだ、と。
  骸が医療器具の中から何かのリモコンを取り上げるのが見えた。すぐに微かなモーター音がして、診察台がゆっくりと動き出した。上半身はそのままに、拘束具に固定された足が宙に浮く。太股は体と垂直に、膝から下は体と水平を保つように、開いた足の間から尻の狭間がよく見えるような姿勢を取らされた。
「っ……」
  屈辱的な姿勢に、獄寺は憤りを感じた。
  オメガであるというだけでこのような仕打ちを受けるとは思ってもいなかった。まがりなりにも同じファミリーであるこの二人が結託し、このような事を企て実行したということを綱吉が知ったらどうなるか、解らない二人ではないはずだ。と、いうことは、二人の利害は綱吉の怒りをも凌ぐ強い信念によるものかと思われた。
  だからと言って目の前の二人を許すことにはならないのだが。
  笑いながら骸は獄寺の腕を何度も撫でてくる。
「身体の調子はどうですか?」
  撫でられた部分から産毛が総毛立つような不快感が込み上げてくる。布越しであっても、触られるのが気持ち悪い。獄寺は片方の眉をピクリと跳ね上げ、顔をしかめた。
  最初からアルファだとわかっていた骸はともかく、雲雀の様子を見るからに、彼はオメガを憎んでいるように思われた。とは言うもののアルファであることに優位を感じているわけでもなさそうだ。どちらかというと、雲雀は嫌々オメガのことを知ろうとしているように思われる。こうまでしてオメガのことを知る必要があるのだろうか。
  そんなことを考えているうちに、身体の奥からムズムズとした感覚が込み上げてきた。骸に腕を撫でられただけで身体が震えそうになる。不快感が一気に増大する。
  拘束具に体を固定されているため、身を捩ることもできないのが不便だ。身体の中のそこここで、ポツポツと火がつき、熱くなってくるような感じがする。無理やり発情期を誘発されたせいで昨夜からあまり調子のよくなかった胃の辺りもシクシクと痛み始めた。
  それなのに、身体の火照りはますます強くなってくる。
  まずいなと獄寺は思った。その途端、雲雀に尋ねかけられた。
「オメガって、発情期には自分から濡れてくるんだってね」
  女はともかく、男は自ら濡れることはない。だが、オメガの男は違う。発情期になると尻の奥、腸壁の手前あたりから淫液が溢れてきて自然と濡れることができるようになる。そうなることによってオメガは、他の性を持つ男よりも比較的楽に相手を受け入れることができるようになる。
  誘発剤のせいで獄寺の身体の中は、発情期のオメガとして急速的に変化しつつあった。
  次第に息が粗くなってきた。目がトロンとして、涙で潤んでくる。
  尻の奥がムズムズして、後孔がひくつきだす。股間がに熱がこもってくるのを、獄寺は握りしめた拳の中で爪を立てて堪えようとする。
  骸は笑っていた。雲雀もだ。嘲笑う声が、獄寺の耳の奥に反響する。
「おや、苦しそうですね。この際、脱げるだけ脱いでしまいますか?」
  言いながら骸は獄寺の上衣を脱がそうとした。だが腕を拘束されているため、ネクタイを緩め、ワイシャツの前を左右に広げただけで終わってしまう。恥ずかしい格好にかわりはないが、何もないよりはまだマシかもしれない。
  足の間を覗いていた雲雀が不意に声をかけてきた。
「ねえ、いつになったら濡れてくるの?」
  器具をカチャつかせながら雲雀は獄寺の性器に触れてきた。手で直接触れることに抵抗があるのか、まだ萎えた状態の性器を器具でジリジリとなぞっていく。
  金属の冷たさに獄寺は思わず喉の奥で声を上げていた。鳥肌が立ちそうになる。
  骸が楽しそうに笑った。
「クフッ」
  くぐもった笑いをひとつ洩らすと骸は、獄寺の乳首を指先で摘まみ上げてきた。
「触られると気持ちいいんじゃないですか?」
  我慢しないでいいですよと骸が言うのを、獄寺は睨み付ける。今はそれぐらいしかできることがないのが悔しい。
  骸はしかし、そんな獄寺を相手にすることなく、熱心に乳首をいじり始めた。片方の乳首をきゅっ、と摘まむと、やわやわと擦り上げる。乳頭を指の腹で押し潰したかと思うと爪の先で引っ掻いたり、強く引っ張ったりする。そうされると獄寺の乳首の芯にビリビリとした痺れるような快感が伝わってくる。
  そうだ、これは紛れもなく快感だ。獄寺はぞっとした。こんなふうに拘束され、なぶられているというのに快感を得てしまう自分に憤りを感じた。
「っ、ぁ……」
  唇の隙間から、微かな声が洩れることさえも苛立たしい。
「気持ちよくなってきたのですね」
  クフフ、と笑うと骸は、もう片方の乳首に顔を近付けてきた。おもむろにピチャリと音を立てて、獄寺の乳首が舐め上げられる。
「んっ……!」
  ざらざらとした舌が焦らすように乳首を転がし、唇で挟まれ、強く吸われた。獄寺の体がビクン、と大きく震える。
  足の間では雲雀が、相変わらず獄寺の性器を撫でている。冷たい金属が掠めるように竿の側面をなぞり降りていったかと思うと、先端へと戻り、尿道口の小さな孔をこじ開けようとする。
  嘲るような冷たい雲雀の眼差しが、獄寺を見下ろした。
「乳首だけでも気持ちいいみたいだね」
  言いながら雲雀は、金属の先端で尿道口の孔の縁をぐるりとなぞった。
  ひんやりとした感触に、獄寺の太股がプルプルと震える。怖くもあった。耳掻きのような形状をしていた器具の先端を雲雀がどうするのかわからないのが不安でしかたがなかった。
  乳首をちゅぽん、と吸い上げると骸は、ようやく獄寺の胸から顔を離した。
「気持ちよさそうな顔になってきましたね」
  そう言うと手の甲で、獄寺の頬を撫でてくる。おぞ気がして、獄寺は顔をしかめるばかりだ。
  その瞬間、雲雀が手にした器具が、ズプリと尿道口に押し込まれた。
「ヒッ……あ、ぁ……!」
  仰け反りかけたものの、拘束具によって動きを阻まれ、獄寺はみっともなく悲鳴のような声を上げることしかできなかった。
  雲雀は容赦なく手を動かし、中を激しく掻き混ぜた。下腹の奥のほうがカッと熱くなり、焦れったいようなもどかしいようなむず痒さが竿の先端へと駆け抜けていく。
「や、め……っ……」
  低く唸るように獄寺が威嚇する。しかし雲雀は何食わぬ顔でさらに激しく器具を抜き差しし、中を掻き回す。小さなヘラの先が肉を引っ掻き、内側から圧迫する。獄寺は何度も体を捩ろうとした。
「あっ、あぁ、ぁ……」
  みっともない声をあげながら獄寺は、拳を握りしめた。
  掌に立てた指先に力を込めると、爪が肉に食い込む。雲雀から与えられる痛みが、ほんの僅かだが四散する。
  無情にも、痛みと恐怖に悶える獄寺の姿を見て骸も雲雀も笑っていた。



  尿道口に押し込まれた器具が内部の柔肉をこそげるようにして出し入れされる。そのうちにじゅぷっ、じゅぷっ、と水音がしだした。
「も、やめっ……」
  竿の内側がヒリヒリと痛かった。射精感のような排尿感のような嫌な感覚が込み上げてきて、獄寺は何度も動かない身体を捩って雲雀の手から逃れようとする。その度に雲雀には激しく尿道を攻められ、骸には執拗に乳首を攻められた。
  獄寺の身体の内側では今や熱が渦巻いていた。
  ともすれば腰を揺らしたくなるようなムズムズとした焦燥感が腹の底を支配しており、後孔の奥では媚肉が蠕動を繰り返していた。濡れる、という感覚は自分でも知っていたが、無理矢理こんなふうに快感を呼び起こされるのは初めてのことだった。
  不意に骸が顔を上げ、獄寺の目を覗き込んできた。
「……やめますか?」
  やめてもいいのですよ? と、骸は何食わぬ顔でそう告げた。今、ここで放り出されれば辛いのは獄寺だと知っての言葉だ。それでも獄寺はコクコクと頷いた。こんな形で自分がオメガだと思い知らされるのは辛かった。何より、好きでもない相手からの暴力のような形で肌を晒し、オメガである事実を晒さなければならないことは獄寺にとってはたまらなく忌まわしいことでもあった。
  でも、と、雲雀が口を挟んでくる。
「こんなに硬くなってるのに?」
  言いながら雲雀は、器具を持った手をくい、と動かした。
  途端に獄寺の陰茎の内側を痺れるような痛みが駆け上る。器具を入れられているというのに、陰茎はいつの間にか勃起していた。
「ヒッ、あ、あ……!」
  ゴリゴリと柔肉を引っ掻きながら器具が引き抜かれていく。
「っ……や、めっ……」
  獄寺の口の端から、たらりと涎が零れ落ちる。
「止めてほしいんだろう? お望み通り、止めてあげるよ」
  舌なめずりをしながら雲雀は言った。
  容赦なく柔肉をこそげるようにして手を動かしながら、雲雀はじわりじわりと器具を引き抜いていく。獄寺の中で焦燥感が込み上げてきた。出したい。中のものを出したい。
  焦れるように獄寺の尻が跳ねた。と、同時に、雲雀が手にした器具が陰茎から抜き出された。ガリ、と柔肉を強く引っ掻き、尿道口の入り口を強く擦りながら器具が抜けていく。
  獄寺は悲鳴のようなか細い声をあげていた。
  陰茎の先端がふるりと揺らぎ、ぱっくりと口を開けた小さな孔から琥珀色の液体が湧き上がってくる。
「あ、あ、ぁ……」
  ショロ、と水音がした。竿の側面を琥珀色の滴が伝い降りていく。一度零れてしまうと、抑えがきかなかった。獄寺の意志に反して小水はショロショロと音を立てながら噴水のように噴き上げ、下肢を濡らしていく。
  痛み、怯え、そして羞恥心が獄寺の心を支配しようとしていた。思い通りにならない拘束された身体を傷付けられないようにするには、目の前の二人の言いなりになるしかないのだろうか。獄寺はきつく目を閉じた。目の奥がシクシクと痛んで、目尻が涙に濡れた。
  カラン、と音がした。
  雲雀が器具を床の上に投げ出したのだろう。
「なんだ、気持ちよすぎて漏らしちゃったの? 君、堪え性がないみたいだね」
  嘲笑交じりの声が、耳に痛い。
  獄寺は目を閉じたまま、首を横に向けた。
  できるだけ彼らの視線を避けたかった。
「濡れたはいいですが、これでは本当に中から濡れたのかどうかわかりませんね」
  呆れたように言いながら骸は、またもや獄寺の頬を手の甲で撫でてきた。
「目を開けるんだ、獄寺隼人。今から後ろの濡れ具合いを一緒に確かめようじゃありませんか」
  骸の冷たい声に、獄寺はゾクリと背筋を震わせた。
  そろそろと目を開けると、開いた足の間に骸がいた。医療用のゴム手袋を手に着けて、細い円筒形の金属を手にしている。
  怪訝そうな獄寺の視線に気付いて、骸はうわべだけは優しげな笑みを浮かべた。
「これはね、君の後ろの孔を拡張するための器具です。こんなふうに使うんですよ」
  そう言うと骸の手は獄寺の尻を撫でた。それから、後孔の襞を確かめるように指先が何度か行き交った。ゴム手袋越しの指に触れられると胃の中から気持ち悪さが込み上げてくる。小水に濡れた後孔が、骸の指によって軽い刺激を受けたことでヒクヒクとなる。骸の指が素早く獄寺の襞の縁にかかり、くい、と捲り上げた。円筒形の金属が後孔に押し込まれ、ヒヤリとした感触に獄寺の尻が軽く逃げを打とうとする。
「力を抜いて」
  骸の声が遠くから聞こえてくるような感じがする。
  拡張用の器具を押し込まれた後孔がヒリヒリと痛む。だが、皮膚が裂けるようなことはないようだ。金属の冷たさはすぐに体温に馴染み、内側の熱と同じぐらい違和感のない温度になった。
  クフフ、と骸は笑った。
「こんな金属を咥え込まされても感じているのですか、君は。後ろがヒクヒクしていますよ」
  さっき、雲雀が手にしていたのと同じような耳かき状の金属の器具を骸は、獄寺の中に押し込んだ。拡張器のおかげで器具を入れる時の痛みは感じなかったが、内壁を擦られるのは別だった。骸は器用に手を動かして、獄寺の内壁をこそげるように器具のヘラになった部分を押し付けていく。
「やめ、ろ……」
  こんなことをして、ただですむと思っているのか。そう言いたかった。いや、見栄を張ってでもそう言うべきだった。だが、怖かった。身体を拘束され、大事な部分をこんなふうに二人の眼前に晒して、無事でいられるかどうかもわからない状況では、逆らうこともできなかった。
「おや」
  骸が不意に手を止めた。器具が引き抜かれる感触がした。
  骸は一旦、獄寺の足の間から離れると、雲雀に視線を送った。
  雲雀が嫌々といった様子でゴム手袋を着け、獄寺の足の間に移動してくる。ペンライトを手にして、拡張器の隙間から中を覗き込まれているのだと気付くにはそう時間はかからなかった。
  雲雀は淡々とした声で言った。
「中が、ヒクついている。濡れているように見えるけれど、これじゃあ、さっきのお漏らしのせいじゃないとは言い切れないな」
  感情のない雲雀の声にも、不本意ながら獄寺は感じていた。気持ちいいのだ、太腿の付け根にかかる雲雀の吐息が。身体の中を見られているのだと思うと、それだけで腹の奥がきゅぅっ、となって、後孔がヒクつくのもわかるほど、自分は今、感じている。
  哀しいかな、発情期とはそういうものなのだ。
  もしかしたら、後孔に突っ込んでもらい、腹の中いっぱいに白濁を注ぎこんでもらうためなら今の自分は何だってするかもしれない。淫乱なことこの上ない発情期を押さえ込みたいがために、何年ものあいだ必死になってピルや抑制剤を使ってきた。それが、無駄になろうとしている。
  呆れたように雲雀は首を横に振った。骸に場を譲ると彼は、ゴム手袋を外し、獄寺に背を向けた。
「見たいものは見せてもらったけれど、あまり参考にはならなかったかな」
  馬鹿にしたようにそう言い捨てると雲雀は、部屋を出ていく。
  一瞬、ドアの向こう側が見えたような気がした。ここがボンゴレのアジトの一画ではないことだけは確かだ。それでは、雲雀か骸のアジトなのだろうか、ここは。
  発情期の焦燥感に朦朧とする頭で獄寺が考えていると、尻に手がかかった。骸の手だ。
「これはもう、必要ありませんね」
  いきなり拡張器をズルズルと引きずり出され、獄寺はのけぞろうとした。
  突然の痛みと、微かな排泄感に体に力が入る。後孔がきゅっとなり、拡張器を喰い締める。
「そんなに中に入れて欲しいのですか」
  骸は呆れたように鼻で笑うと、獄寺の尻をパン、とぶった。
「ヒッ……!」
  思わず、媚びるような声があがった。
  やれやれ。骸はそう呟くと拡張器を無理矢理引き抜いた。ぐぽっ、と湿った音がして、失った質感を探して後孔がいやらしくパクパクと開閉を繰り返す。
「本当に欲しがりですね、君は」
  骸はクフフと笑いながら今度は指を後孔に沈めてきた。ラテックス越しの指の感触が不快で、獄寺は思わずえずきかけた。酸っぱいような胃液の味が口の中に広がるのを、頬の内側の肉を噛んで耐える。
  骸の指は、何かを探すように獄寺の後孔の中を奥へと進んでいく。内壁を優しくなぞったり、爪の先で引っ掻いたりしながら奥深い部分を目指しているようだ。
「くっ……」
  シャマルの指とは異なる感触に、獄寺は嫌悪を感じていた。
  シャマルの事務的な手つきは、嫌ではなかった。もともと主治医だっただけあって、慣れていたこともある。発情期を鎮めるために何度も彼の手で慰めてもらったが、その手が獄寺を傷付けることはなかった。
  だが、今、獄寺の後孔に潜り込んでいる指は違う。骸の指は彼自身の目的のためならば、獄寺を傷付けることもできる。卑しめることもできる。彼の興味を満たすために、この指は獄寺を犯しているのだ。
  骸の指の根本が獄寺の後孔の入り口に阻まれた。仕方なく骸は、中に沈めた指先を動かした。グチグチと湿った音がして、爪が内壁を掠める。一瞬、獄寺の腹の奥がきゅうっ、と緊張するように強張った。
「ああ……」
  噛み締めた歯の間から、獄寺の諦めにも似た微かな声が洩れる。
  足の間で骸は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「やっと濡れてきましたね」
  指先が、滴り下りてきた淫液を掬い取るような動きをしているのが獄寺にもわかった。
  それから骸は指を引き抜くと、獄寺の目の前に指をかざした。
「ほら、これがその証拠。オメガの男が濡れるというのは、いやらしい光景ですね」
  骸は指の腹の間で透明な淫液をにちゃにちゃとなすり合わせた。指と指とが離れると、トロリと滴る淫液が、指の間で糸を引く。
「いやらしい……」
  溜息を吐くように、骸は微かな興奮を含んだ声で言った。



(2016.8.8)


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