『三日月の夜 24』



  朝靄が白く立ちこめる中、調査隊の船はゆっくりと岸辺を離れていった。
  船に乗り込んだのは猿屋の兄弟と、前回の調査から引き続き参加のロビンとジンベエ、それにゾロとサンジの二人を加えた、都合六人の小さな一隊となった。
  あんなに大勢集まっていたというのに、残ったのはたったの四人だった。小ぢんまりとした調査隊の様子に、サンジは自嘲めいた笑みを浮かべる。
  日が昇る時間になっても、空はどんよりと曇っていた。
「今日は一日こんな天気みたいね」
  いつの間に傍にやってきていたのか、肩を竦めてロビンが呟いた。
  ロビンのほうへと向き直ると、サンジは尋ねた。
「ロビンちゃんは、今回で四回目なんだよな」
  四回という回数が少ないのか多いのかは、サンジにはよくわからない。だが、今回の調査のために集まった者たちが猿屋の二人の言葉で呆気なく逃げ出してしまうことを考えても、この調査で得るものはあまりないように思われる。
  出かける前にウソップに会って詳しく話を聞いておくべきだったかと、サンジは胸の内で考える。あの男なら、もしかしたらサンジが知らないような裏の情報を何か掴んでいたかもしれない。どこか抜けているように見えることもあるが、あれでなかなか情報通なのだ、あの男は。
  ちらりとロビンを見ると、彼女は船の縁でじっと海の向こうを眺めていた。
「冬島が好きなのか?」
  尋ねると、ロビンは比較的興味なさそうな様子で「いいえ」と返してくる。
「別に、どっちでもないわ」
  素っ気ないというのとも少し違う、ロビンの感情の読めない冷めた表情がどこか粋に見える。
「冬島に行ったとしても、すべてから逃げられるわけじゃないのよ」
  そう、彼女はポツリと呟いた。
「え?」
  顔を上げてサンジが尋ねると、ロビンは自嘲気味に淡く口元に笑みを浮かべた。
「この世の中には敵が溢れてる。逃げるためではなく、戦うために……自由という宝のために、冬島へ行こうとしているのだとしたら?」
  ドキリとした。
  自分のことを言われているのだろうかとサンジが怪訝そうに眉間に皺を寄せると、ロビンはふっと口元を緩めて笑いかけてくる。
「大丈夫。私たちは仲間よ」
  それだけ告げるとロビンは、サンジに背を向けて甲板下へと行ってしまった。
  肌がピリピリするほどに冷たい風が、サンジの頬を撫でつけていく。
  仲間、という言葉が妙に薄っぺらく感じられた。だが、そんな風に言ってもらえて嬉しかったのも確かだ。あんなに美人から仲間と思ってもらえているだなんて、光栄なことだ。
  空を見上げると、やはりどんよりとした灰色の雲が厚く張り出していた。日の光は雲に遮られており、船が進むにつれて次第に空気が冷たくなってくる。
  振り返って岸のほうを見ようとしたが、自分たちが暮らしていた岸辺はいつしか見えなくなっていた。
  向こう岸に残してきたものは多かったが、心配事も一緒に置いてきたのだと思うと、少しだけサンジの心は軽くなったように感じられる。これから三日間は、あの隻腕の男のことを考えずにすむ。そう思うと気持ちがホッと緩みそうだ。向こうに残してきた見世の者たちには悪いが、ほんの少しだけ羽を伸ばさせてもらうことにしよう。
  そう、サンジは決心した。



  船はその日いっぱいかけて海を渡り、なんとか日暮れ前には冬島に到着することができた。
  残照のおかげであたりがまだ薄ぼんやりとしている間に波の穏やかな岩陰に辿り着くことのできた一行は、その日は船の中で一泊することにした。
  大急ぎで船を係留し終えた直後に日は落ちて、あたりは寒々とした夜に包まれていく。
「ギリギリだったな」
  船に戻ったところで、エースがホッとしたように言った。
「さすがね。ほぼ予定通りだわ」
  ロビンはにこりと微笑んだ。
  サンジは持ってきた食材を使って簡単な夕餉を用意した。船の中で火を熾すことができるのはありがたい。何より、あたたかな茶を淹れることができる。
  向こう岸ではまだ秋だったが、こちらはもう冬とかわりなかった。
  とにかく寒いのだ。手足は冷えるし、寒くてたまらない。
  だが、他の男どもは平気な顔をしている。それどころか四人とも薄着のままで、エースに至っては上半身裸のままで楽しそうに談笑しているではないか。
「やっぱり夜は冷えるわね」
  そう言うとロビンは、早々に自分に与えられた部屋へと引き上げていった。
  小さな船だが、中には簡易式の調理場を備えていた。小部屋は三部屋。割り当てでは、ロビンが一人で一部屋、猿屋の兄弟とジンベエが共同で一部屋、そしてゾロとサンジが二人で一部屋となっている。
  誰がこの部屋割りを考えたのかは知らないが、うまく割り振ってくれたものだとサンジは思っている。
  適当なところで場を抜けたサンジは、部屋に引っ込むと布団にくるまった。
  分けてもらった酒のおかげで、体があたたかい。寝るなら今のうちだと目を閉じたところで、ゾロが部屋へと入ってきた。
「なんだ、もう寝ちまうのか?」
  部屋の隅に刀を置いて、ごそごそとゾロは布団の中へと潜り込んでくる。
  ひんやりとした空気が布団の中に入り込んできて、サンジはゾクリと背筋を震わせる。
「やめろ、寒いだろ」
  鬱陶しそうに肘で男の体を押しやると、ふざけるようにして背中から体を抱き寄せられた。
  酒臭い息が首筋にかかり、サンジの耳たぶを舌がざらりと舐めていく。
「明日は早朝から調査だ。海の上だからって、気ぃ抜くなよ」
  耳元に囁きが流し込まれる。
「どういうことだ?」
  怪訝そうにサンジは尋ね返した。
  調査内容については、サンジは何も聞かされていない。エースもルフィも、その時の気分で好き勝手に調査をするようなことを言っていたが、ゾロに聞く限りでは指揮を執っているのはロビンのようだった。
  サンジが抜けた後の話で、ロビンが明日は海洋調査を行うと口にしたらしいのだ。
  船の上に待機する者と、海中に潜る者とに分かれて調査をするらしい。海に潜るのはジンベエとゾロの二人だ。ロビンとサンジは甲板で待機。その間にエースとルフィは別行動で内地の調査に出るらしい。戻ってくるのは明後日の予定だ。
  そこまで聞かされて、サンジはもやもとしたものを感じた。
  六人ぽっちの調査隊で、二手に分かれる必要はあるのだろうか。
  背後のゾロの手を取り、サンジは自らの手を重ねた。
「冬島にいるからといって、全てのものから逃れられるわけじゃない……」
  ポソリと呟くと、サンジは自嘲気味にフン、と鼻を鳴らした。ロビンはいったい、サンジに何を言おうとしていたのだろう。
  サンジの白いうなじに唇を押し付けて、ゾロは囁いた。
「違うだろう。逃れるためにここへ来たんだ」
「そうなのか?」
  逃れるため、という言葉にサンジはひっかかりを感じた。
「さあ、どうだろうな」
  どこか面白そうに返すゾロは、珍しく言葉遊びをしているようだった。
  わけがわからないなとサンジは、眉間に皺を寄せた。
  押し黙ったサンジの体をゾロの手がまさぐりはじめる。サンジの着物の帯をシュルリと解くと、緩くなった襟元に手を差し込んでくる。
「おい、隣はロビンちゃんの部屋だぞ」
  やんわりと男の手を拒もうとすると、フフッ、と耳元でゾロは笑った。
「気にするな。声を出さなきゃいいだけだ」
  無理だ、とサンジは思った。
  着物の襟をぐい、と引き寄せるとサンジは噛み締めた。これで少しは声を抑えられるだろう。
  その様子を見てゾロは、好きにしていいと解釈をしたらしい。すぐに男のごつごつとした手は遠慮なくサンジの体を遠慮なくまさぐり始めた。乳首をこねくり回したり、手を下へとずらして腰布の上からサンジの性器を扱いてくる。その間中サンジはずっと、声をこらえていた。少しでも声を出したら、ロビンに聞こえてしまう。そうなったら、自分たちの関係が彼女の知るところとなるだろう。それだけが心配だった。
「今日は挿れねえから安心しろ」
  そう言ったものの、ゾロの手は執拗にサンジを高めていく。じれったいほど時間をかけて布越しに前を弄られ、射精を遮られたままの状態で後ろに指を押し込まれた。
「ん、ん……」
  フルッとサンジの体が震える。と、同時に尻の奥に潜り込んだゾロの指を締め付ける。
「なんだ、待てねえのか?」
  そう呟いたかと思うとゾロの手がサンジの体をひょい、とひっくり返した。腰布を解くのももどかしいのか、布をわずかにずらした状態で硬くなったサンジの竿にしゃぶりついてくる。
「このままイかしてやるよ」
  そう言うと、再びゾロの節くれ立った指がサンジの中に突き立てられた。今度は一本ではなく、指は三本に増えていた。そのまま中をぐりぐりと穿たれ、内壁を擦り上げられた。
「んっ、ん……ぅ……」
  ぐちぐちという湿った音が部屋に響き、サンジは無意識のうちに腰を蠢かしていた。
「やっ……中に……欲しっ……」
  うわごとのようにそう口走ると、サンジは自ら腰布をぐい、と広げて尻の穴が見えるように大きく股を開いた。
「指じゃなくて……アンタのが、いいっ……!」
  尻の奥で、サンジの窄まった部分がヒクヒクとなった。
  隣の部屋でロビンが休んでいることは分かっていたが、それでもサンジの体は止まらなくなっていた。どうしてこんなにもこの男に餓えているのだろうと、サンジの頭の隅の冷静な部分がぼんやりと考える。
「挿れねえ、つっただろ?」
  掠れた声でゾロがやんわりと諌めてくる。
  だが、そんなふうに言いながらもゾロの腰のあたりが緩やかな盛り上がりを見せていることをサンジは知っている。
「アンタだって、辛いだろう?」
  手を伸ばして、布地の上からゾロの性器に触れてみる。硬く張り詰めた屹立は、サンジが布の上からやわやわと撫でただけでじんわりとぬめってくる。
「明日、体が辛くても知らねぇからな」
  チッ、と舌打ちをするとゾロは、自身の腰布の隙間から竿を取り出した。
  二人とも、着ているものを脱ぐだけの余裕もない状態だった。
「いいから早くしろ、って」
  そう促すとサンジは、行為の最中に声が洩れないように着物の襟を再び噛み締めた。ゾロはやや乱暴にサンジの中へと竿を突き立ててきた。腰布の隙間からぐいぐいと竿を押し込まれ、サンジは思わずのけぞっていた。
  大きく体を反らして喉を暗がりの中にさらすと、すかさずゾロの唇が食らいついてくる。
  肌を吸い上げ、軽く皮膚を噛まれてサンジはくぐもった声を上げた。
  腹の中に収められたゾロの性器が、サンジのいいところを激しく突き上げてきた。腰骨があたり、根本まで押し込まれていることを実感してサンジは両足でゾロの腰にしがみついていく。
「んっ……んんっ!」
  がしがしと体を揺さぶられ、中に白濁を放たれた。熱くてドロリとしたものが腹を満たしていくのを感じてサンジは、さらに後孔を締め付け、ゾロの竿から溢れるものを貪ろうとする。
  不意にゾロの手が、サンジが口に咥えていた着物を取り上げた。
「やっぱ声、聞かせろ」
  鬼のように鋭い眼光がサンジを暗闇の中で見下ろしていた。
「ああ……」
  何かに操られるようにして、サンジは小さく頷く。
  満足そうにニヤリと笑ったゾロは、たった今放ったばかりだというのにまたサンジの中を突き上げ始めた。このまま二戦目に突入するらしい。
  サンジは逞しい男の背中にしがみつくと、その頬に唇を這わせていった。



to be continued
(H27.8.21)



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